【ターンテーブル動画】カンタータ『 人々シバよりみな来たりて』BWV65より パウル・ザッハー 78rpm(1937)

ひとつ前の記事で「78rpm(SP盤)時代は、オペラのアリアの録音と比較すれば、バッハのカンタータのアリアを録音したものはとても少ない。」と最後に書き加えた。理由は定かでない。もし、定説、いや想像、憶測でも構わないので「これ」というワケをご存知の方がいらしたら、是非ご教示いただきたい。

アリアすら少ないのだから、カンタータ全曲、ましてや受難曲やロ短調ミサの全曲78rpmなどは言わずもがな、である。

以前、このブログでB.キッテルと彼の合唱団、そしてベルリン・フィルハーモニーが1942年に録音した『マタイ受難曲』全曲78rpm(18枚組)をご紹介したことがあるが、あれはもう「奇跡」の部類だろう。

 

 

 

 

カンタータ全曲で言えばで私の手許にある78rpmは、これも以前ご紹介したR.ショウのBWV4『キリストは死の縄目につながれたり』のみだ。

 

 

 

 

そんな状況の中、さすがに全曲ではないが2/3程度が収録されたBWV65『人々シバよりみな来たりて』の78rpmを見つけて取り寄せてみた。この78rpmはいろいろな想像を掻き立て、関連を想起させる興味深い盤のように思う。

リリースは1937年。
指揮はスイス出身のパウル・ザッハー(1906-1999)。彼が指揮するバーゼル室内合唱団および室内管弦楽団に、同じくスイス出身のテノール、マックス・メイリ(1899-1970)が加わる。全7曲で構成されるBWV65のカンタータの内、第1曲「合唱」、第2曲「コラール」、第6曲「アリア(テノール)」、そして第7曲「コラール」の4曲、つまりあたま2曲とおしり2曲が取り上げられている。

 

 

         

L’ANTHOLOGINE SONORE   61

                                  

 

ザッハーと言えば何と言っても世界初の古楽(ピリオド)専門の音楽大学であるバーゼル・スコラ・カントルム(SCB)を1933年に創設させた音楽家、指揮者、作曲家として音楽史にその名を刻んでいる人だ。

 

 

 

 

SCBと言えば、一番最初に思い浮かぶ名前がアウグスト・ヴェンツィンガー(1905 – 1996 ヴィオラ・ダ・ガンバ)という方もたくさんいらっしゃるだろう。かく言う私もそうである。ヴェンツィンガーはドイツ・グラモフォンの古楽部門であるアルヒーフと連携して、戦後いち早くピリオド楽器および奏法で、バッハを筆頭としたバロック音楽の録音を始めたパイオニアだ。現在のピリオド奏法と比較したらその徹底ぶりもテクニックもおぼつかない、という印象はあるが、彼とその仲間たちの努力がなければ、レオンハルトやアーノンクールの活躍はなかったかもしれない。ヴェンツィンガーがSCBのヴィオラ・ダ・ガンバの教授に迎えられたのは、創設の翌年1934年のことである。


さて、ザッハーはSCBの創設から遡ること7年前の1926年に、
古典派音楽や近代音楽作品を演奏する目的でバーゼル室内管弦楽団(現在、G.アントニーニの下で活動している同名のグループとは別団体)を結成している。実はザッハーは同じくバーゼルに本社を構える世界的製薬会社、エフ・ホフマン・ラ・ロシュのオーナー未亡人と再婚し、巨万の富を手中にし、それによって当時の作曲家たちに作品委嘱を次々に行っていくのである。
有名どころだと、ストラヴィンスキー『弦楽のための協奏曲(バーゼル協奏曲)』、バルトーク『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』と『ディヴェルティメント』、オネゲルの交響曲第2番と第4番『バーゼルの喜び』などが現在でも広く演奏されている。
また一方でバッハはもちろん、ハイドンやモーツァルトのレコード録音も数多く残している。

さて、ザッハーのこんな経歴を見ていくと、ある指揮者との多くの共通項が見当たらないだろうか?

ヘルマン・シェルヘン(1891-1966)、その人である。

シェルヘンも古典と現代の両方に通じ、バッハ作品の録音を米ウエストミンスターに多く残し、その一方でシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』初演に協力し、ベルクの名曲『ヴァイオリン協奏曲』初演も彼の指揮で行われた。記録によれば彼の手によって初演された作品は200を下らないらしい。

 

シェルヘンもザッハーも時代的には新即物主義に根差した音楽家だが、そこにそれとは背を向ける表現主義的要素をも隠し持つようなタイプの人たちのように思う。


さて、テノールのマックス・メイリはSCBの創設メンバーのひとりであり、バロック以前の音楽を専門的にレパートリーにしていた人である。
バッハのカンタータで現在比較的容易に入手できるCD音源としては、1918年から1939年までトーマス・カントルを務めたカール・シュトラウベ(1873-1950)とトーマス合唱団、ゲヴァントハウス管弦楽団と共演した放送用音源、BWV97のカンタータ『わがなす すべての業に』(抜粋)がある。この音源のクレジットに目を落とすと、当時のゲヴァントハウスのコンサートマスターの名前を目にすることになる。シャルル(カール)・ミュンシュである。さらに21歳の若き首席オーボエ奏者の名前も見つけることになる。ルドルフ・ケンペ、その人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人々シバよりみな来たりて』BWV65は、1724年1月6日の顕現節に初演されたカンタータだ。
「顕現節」とは西方教会では、生まれたばかりの幼子イエスへの東方の三博士の訪問と礼拝を記念し、異邦人に対する主の顕現(姿をはっきりと現すこと)を祝わう主日
である。
従ってこの作品はバッハのカンタータの中でも幸福感に満ちた音楽となっている。トランペットやティンパニーの加わった祝祭的な作品とは異なるが、ホルン2 本、レコーダー2本、オーボエ・ダ・カッチャ2本が編成され、管楽器の温かく優しい音色に心落ち着くのである。


ザッハーが作り出す音楽も学究的というよりは、その温かさや幸福感を醸成させるもので、1930年代のバッハ声楽作品の貴重な記録といってよいと思う。

 

 

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