【ターンテーブル動画】A.ヴェンツィンガー(ヴイオラ・ダ・ガンバ)・F.ノイマイヤー(チェンバロ)『ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ 第3番 ト短調 』BWV 1029(1952)

世界初の古楽専門音楽大学バーゼル・スコラ・カントルムで教鞭をとる一方、バーゼル・スコラ・カントルム合奏団を率いて古楽復興に取り組んだアウグスト・ヴェンツィンガー(1905 -1996)。そして彼の盟友フリッツ・ノイマイヤー(1900-1,983)による『ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ 第3番 ト短調 』BWV 1029。
ヴェンツィンガーは後にエドゥアルト・ミュラーとステレオ録音でこの曲を再録しているが、古楽復興が道半ばの中で彼が研究し、発表したこの1回目の録音は、その後のこの曲を演奏する際のメルクマールとなったと言ってよい。

 

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バッハはその生涯のほとんどを教会音楽家として奉職していたが、ケーテン時代(1713-1723)は宮廷楽長として、音楽に非常に関心を持っていたアンハルト=ケーテンの領主、レーオポルト公に仕え、宮廷で演奏することを目的に多くの器楽曲を作曲し、教会音楽はこの時代にはほぼ作曲されていない。
1720年に書かれたとされる3曲のヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタもその中のひとつであり、さらにレーオポルト公自身がヴィオラ・ダ・ガンバ奏者であったことからして、公が演奏することを目的に書かれたと推測される。

ただし近年のバッハ研究において、この3曲は元々はそれぞれ別の編成のアンサンブルのために書かれたものを、レーオポルト公が演奏するために編曲されて『ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ』となったのでは?というのが専らの説である。
何故そのような説が成り立つのかと言えば、これら3曲をこの2つの楽器で演奏することに「違和感」があるからである。つまり「楽譜通りに演奏すると、その音楽的内容を正当に伝えてはいないのではないか?」という懸念が付きまとい、演奏者自身がその演奏に満足できない、という現象が起こるからだ。

では、元々はどんな編成のために書かれたか?というと『第1番 ト長調』BWV1027は2つのヴァイオリンと通奏低音のためのトリオ・ソナタとして作曲され、その後フルート2本と通奏低音のためのトリオ・ソナタに編曲、さらにそこから編曲されたもの、『第2番 ニ長調』BWV1028はオルガンのためのトリオ・ソナタとして、そして『第3番 ト短調』BWV1029は管弦楽曲として作曲された、というのが定説となっている。

という観点から第3番のソナタを聴くと、いやそんな予備知識がなくても、多くの方はこの曲の第1楽章がバッハの‟とある”有名な曲と似た雰囲気を持っていることにすぐに気づかれるであろう。『ブランデンブルク協奏曲第3番 ト長調』BWV1048の第1楽章である。ト短調の同主調はト長調であり、BWV1048で弦楽合奏が刻んでいくモチーフとBWV1029でヴィオラ・ダ・ガンバが刻むモチーフは酷似している。

しかし、ヴィオラ・ダ・ガンバによる演奏では『ブランデンブルク協奏曲第3番』が聴かせてくれる壮麗で推進力がある音楽には迫り切れない。そんなことを思うと、やはりこの曲のオリジナルは、ある程度規模の大きいアンサンブルのために作曲された作品なのでは?と余計に思うわけである。


バッハはその後半生において、自身の作品に旧時代の楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバを使うことを減らしていった。チェロやチェロ・ピッコロのヴァイオリン族の楽器がその表現力や音量により、ガンバ(ヴィオール)族の楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバを駆逐していったのだ。1787年、当時最高のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者と呼ばれた巨匠カール・フリードリヒ・アーベルが死去したのとほぼ時を同じくして、この楽器は音楽演奏史から一旦姿を消すことになったのだ。

『マタイ受難曲』にはヴィオラ・ダ・ガンバがアリアのオブリガートとして使われる場面がある。録音で、さらに実際の演奏会で聴き、観ると、ヴィオラ・ダ・ガンバの古めかしさを実感する。それが『マタイ受難曲』には欠かせないと、バッハは考え、そしてその効果を聴き手はしみじみと実感するのだが、このあたりがヴィオラ・ダ・ガンバという楽器の‟最後の見せ場”と言ってよいのではなかろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェンツィンガーはそんな‟忘れられた楽器”であるヴィオラ・ダ・ガンバとその奏法を研究し、その成果を演奏し、レコーディングしていった。彼の努力がなければ、レオンハルトやアーノンクールの「ピリオド第一黄金期」は到来しなかったであろう。

 

 

追記
この作品の「違和感」を克服するため、チェロ・ピッコロと小型ポジティヴ・オルガンで演奏したバロック・チェロの第一人者、アンナー・ビルスマの1990年録音のCDライナーノートは、この作品についての創造性あふれる考察として注目に値する(もちろん、その演奏も)。

 

 

 

 

 

 

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