【ターンテーブル動画】オランダ・ナールデン 『マタイ受難曲』1957

1957年4月19日 聖金曜日、オランダ・ナールデンの聖ヴィトス教会での実況録音。

 

ナールデンはアムステルダムの南東約20kmにある城塞都市。オランダ・バッハ協会は1922年からこの聖ヴィトス教会で『マタイ受難曲』の演奏を続けている。
オランダ・バッハ協会と言えば2018年から、このオーケストラのコンサートマスターであった佐藤俊介が芸術監督に就任。そのため日本でもその知名度が上がり、演奏が注目されるようになった。公式YouTubeチャンネルもとても充実していて毎週のように新作動画がアップされている。

 

 

手許に彼らがナールデンで演奏したLPが2組、CDが1組ある。
CDは2010年に佐藤の前任、ヨス・ファン・フェルトホーフェンが指揮した豪華装丁のSACD。

 

 

 

 

 

 

 

因みに先に挙げたYouTubeチャンネルには、2014年、ナールデンの演奏動画が上がっている(ここでのイエス役、アンドレアス・ヴォルフとアルト(カウンターテナー)のティム・ミードが凄すぎる!)。

 

 

LP1組目は1977年4月3日 棕櫚の日曜日の実況録音。指揮はシヤルル・デ・ヴォルフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう1組のLPが今回【ターンテーブル動画】に仕立てたアントン・ファン・デル・ホルストの指揮によるものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、オランダ・バッハ協会は、皆さんよくご存じ、ヴィレム・メンゲルベルクとコンセルトヘボウによる棕櫚の日曜日の『マタイ受難曲』演奏の習慣に異を唱えるために、1921年に設立された団体だ。おそらく、メンゲルベルクのあの「様式化」され、「ロマン派を通過」した『マタイ』ではなく、原点回帰的なバッハ演奏を目指した、ということであろう。
ただし、古楽復興、ピリオド・スタイルの研究や演奏はまだまだ後のお話であって、少なくとも2組のLPはその時代のオーソドックスな、モダン楽器による、編成も決して小さくはないバッハ演奏だ。演奏からも、またそれぞれのブックレットに掲載されたメンバー表や写真を見ればそれは歴然だ。ピリオド・スタイルに至ったのはヨス・ファン・フェルトホーフェンが芸術監督に就任した1983年以降のことだろう。

さて、A.v.d.ホルスト盤の録音前後をおさらいしておくと、H.シェルヘンが4年前の1953年、K.リヒターとF.ヴェルナーが1年後の1958年、そして、M.ヴェルディケ(実は相当のお気に入り)が1959年、ということで、新しいバッハ像が模索され、志向されていたことは確かだが、演奏様式としてはある程度の重みをもったものがまだ主流の時代であったはず。
何せ、初のピリオド・スタイルの『マタイ』全曲が録音されるのは、それからさらに10年以上あと、1970年のN.アーノンクール盤まで待たなくてはいけなかったのだから。

 

H.シェルヘン盤

 

 

 

 

 

 

 

 

 

K.リヒター 盤

 

F.ヴェルナー 盤

M.ヴェルディケ盤

 

そんな中、ホルストの演奏は、もしかしたらバッハ演奏、合唱の習慣が本場ドイツよりも一般市民レベルまで浸透している感のあるオランダの「市井のバッハ」といったものだったのではないか?という感を強く持つ。リヒターやシェルヘンの鋭さ、厳しさとは異なり、ヴェルナーの温和的なものとも異なる。強いて言えばヴェルディケの「ウィーン市井のバッハ」に近いような気がする。

 

 

 

 

 

 

実況録音盤なので、教会内の会衆の気配、おそらくカットされていないが楽曲間の間合いが、67年前にタイムトリップしたような気分にさせてくれる。
そしてこのレコードが何よりも素晴らしいのは1枚目のA面。レコードに針を落とすとフェードインで聖ヴィトス教会の鐘の音が遠くから聞こえ、そこに小鳥のさえずりが加わり、それと入れ替わるように演奏前の会衆の気配が流れ、その後やっと導入合唱 「来たれ、娘たちよ、われとともに嘆け (Kommt, ihr Töchter, helft mir klagen)」が始まる、という音の演出がなされていることだ。このオリジナル盤を始めて手にして聴き始めた時、この演出を行った制作者のセンスに脱帽し、目の前が真っ白になったような気がした。

そして、いつかナールデンに行ってみたい、とも思った。

 

 

 

【プレーヤー】

Techinics SL-1200Mk4(78rpm対応機種)
【カートリッジ】
audio-techinica VM610MONO
【フォノ・イコライザー】
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