「詞あそび」の達人

コロナウイルス感染拡大の影響で、ライブハウスという場所への、一般の方のイメージがどんどん悪い方に行ってしまっている、というのは、我々音楽に携わる者としてはかなり悲しい、憂慮すべきことだと思っています。もちろん、人が密集し、人と人との接触率が高く、窓もないので換気もよくないライブハウスは、感染拡大を助長する場所である、となってしまうことは理解できます。がしかし、あまりにステレオタイプに捉えてしまうのも、かなり問題が多いのでは?とも思います。テレビのニュース・報道番組で感染者が訪れていた大阪のライブハウスの映像が繰り返し流されれば、ライブハウスという場所を訪れたことがなく、ライブハウスへの知識が少ない大多数の国民が「ライブハウスはコロナウイルスの温床」という固定された認識を持ってしまうのだろう、と想像に難くありません。
私はこの3月、今予定されているものも含めれば、全部で4回、ライブハウスを訪れることになります。既に訪れた2回のライブでは、受付での手指のアルコール消毒、マスクの着用、ライブ終了の物販ブースでのアーティストとの握手禁止などなど、様々な規制を設け、アーティストやライブハウスのスタッフがそれを丁寧に説明し、オーディエンスもそれを遵守しています。そうすることにより、観る方もパフォーマンスする方も、無事に大切な時間を共有することが自然にできている、との印象を少なくとも私は持ちました。ライブが終われば、スタッフがオーディエンスが触れる機会が多かったであろう場所を、アルコール除菌している姿も目にしました。
もちろん、「完璧」とは断言できません。
しかし、これから訪れる予定のものも含め、これらのライブはオール・スタンディングではなく、着席制で行われ、オーディエンス同士の過度な接触はありません。観客も概して30名程度です。

今朝の中日新聞社会面に掲載されていた、浜松医療センターの矢野副医院長のイベント自粛ムードに対するコメントを興味深く拝読しました。先生曰く「自粛ムードが広がり、大きな経済的ダメージが広がっています。本番の流行が始まったら大変なことになる。自粛すべきでないのは学会、クラシックコンサート、野球や大相撲、サッカーの観戦などです。」
つまり、安全性が担保されていれば、むしろこうしたイベントを開催し、参加することで、疲弊する社会や人の気持ちを和やかに、明るくすることができる、ということなのだと思います。
3月28日、私は東京・赤坂のサントリーホールで行われる東京交響楽団の定期演奏会を聴きに行く予定でいます。プログラムはバッハ作曲『マタイ受難曲』。以前このブログで「もし、核戦争が勃発し、核シェルターに入ることになったら、そこへ持ち込みたいCDの最有力候補」として挙げた作品です。
そんな風に思っていた矢先、4、5日前にその東京交響楽団から1通のメールが送られてきました。「あぁ、これは演奏会中止のお知らせかな・・・。」と思い、メールを開いてみたら「新型コロナウイルス感染症対策とお願い|3月21日東京オペラシティシリーズ第113回ご来場の皆様」というタイトルが書かれていました。それによれば、この21日のコンサートは予定通り開催されるが、来場者に感染予防対策を徹底して欲しい、いくつかの症状がある方は来場を控えて欲しい、体調に懸念がある方にはチケット代金の払い戻しをする旨が記載されていました。そして、「ホールまで足をお運びくださるお客様に、安心して演奏会をお聴きいただけるよう、細心の注意と対策を講じた上で、厳重な安全確保につとめ、演奏会の開催を続けてまいります。ご来場の皆様のご理解とご協力を賜りますよう、何卒お願い申し上げます。」と結ばれています。
「何という英断だろう!」と私はかなり感動して、何人かの社員、業界関係者にこのことを話しました。因みに東京オペラシティ・コンサートホールの定員は1,632名。矢野先生がおっしゃるように、座席制で聴衆の移動や動きが少ないクラシックのコンサートであれば、1,600名余の人々が集まっても、万全の対策を講じていれば、むしろ開催し、人々の持つ疲弊感を取り除く方向のことに専心すべき、ということの明確な具体例だと思います。これで28日に2,006名定員のサントリーホールで『マタイ受難曲』を聴くことができる可能性が、少しばかり、いやかなり高まったのではないか? とほっとした気分になりました(因みにこの公演は既にソールドアウト)。聴くたびに「人間というちっぽけな存在」について思いを馳せることになるバッハの最高傑作を、こんな社会情勢の中だからこそ
、ますます聴きに行きたい、という強い気持ちが湧き出るのです。
それにしても、3月8日と14日に通常開催される予定だったミューザ川崎演奏会を無観客で行い、それをニコ動でライブ配信したことも含め、東京交響楽団のコロナウイルス感染拡大における視点は、賞賛に値すべきことだ、と心から敬意を表します。

 

さて、前置きが長くなりましたが、そんな中、先週13日(金)に銀座の(かつてアルマーニの制服が賛否を巻き起こした)泰明小学校近くのライブカフェ「Miiya cafe」で行われたつだみさこさんの自主ライブ・シリーズ「つだみさこの茶の間 Vol.9」に足を運びました。古びた雑居ビルの4階にあるMiiya cafeは一歩足を踏み入れると、そのビルの外観とは趣の異なる温かみのある空間です。
ここでみさこさんはグランドピアノの弾き語りはもちろん、彼女のファンから送られてきた写真で構成され、彼女の仲間の劇団員がナレーションを務めたスライドショー「一枚の写真から」の上映、毎回必ずこのライブのために書き下ろした新曲の披露、そしてゲスト・ミュージシャンとのコラボレーション・・・といった具合に、彼女らしい凝った、しかしそこに参加していると心豊かになるような、そのタイトル通り彼女の自宅の茶の間に通されたような錯覚を伴うショーを展開します。
さらに毎回、お酒好きなみさこさんがセレクトしたその夜限定のドリンク(アルコールとノンアルコールの2種類)が供されます。

 

私がつだみさこというアーティストの存在を知ったのは今から3年少し前、2017年の冬でした。その年の4月から新たにスタートすることを決めていた「K-mix Midnight Rendez-vous “ミドラン”」(月~木 25:00~26:00)で、最後まで決めかねていた木曜日のキャスティングについて、“K-mixアーティスト、影のフィクサー”と私が信頼している某音楽系出版会社のT氏に相談をしたのがきっかけでした。その時、T氏が私に紹介してくれたのがみさこさんでした。今までその名前も音楽も全く知らないアーティストでした。早速彼女のHP(現在のものとは異なります。念のため。)を見てみると、正直、HP制作にはそれほど力を入れていないことが見て取れます。それを証拠に、普通アーティストのHPにはたくさんのリンクが貼られているYouTubeなどの動画がほぼありません。唯一あったのが、相当前のライブで演奏された『ガトーアリ』という楽曲の映像でした。しかたがないのでそれを観てみました。

一発で気に入りました。

一度も会ったこともなく、ライブに行ったことも、音源も聴いたことのないつだみさこというアーティストと、一緒に番組をやってみたいなぁ、と思いました。
早速T氏に顔合わせの場所を設定してもらい、まだ寒い冬の晩に神田の焼き鳥屋で初対面しました。
みさこさんはその場で「『ガトーアリ』しかご存じないのに、私にレギュラー番組を担当させてもいいのですか?」と私とT氏に不安な顔をして尋ねてきました。それに対して私もT氏も「それだけで充分でしょう。」ときっぱり答えました。
また、この時のお話でみさこさんが落語や『鬼平犯科帳』をはじめとする池波正太郎の時代小説、そしてNHKラジオ第一放送が好きで、家にはテレビがない、ということも知りました。「いいぞ。いいぞ。」と私は心の中で呟いたものです。因みに、私は池波正太郎の『銀座日記』が大好きで、何度も何度も読んだ文庫本はボロボロですが、海外に旅する時はよく持参します。池波正太郎は私にっては「目指すべき格好いい男性」の象徴です。そして、これは立場上、禁句だとは思いつつもカミングアウトしますが、NHKラジオ第一放送も大好きです。
こうしてみさこさんとこちらも初対面のヴァイオリニスト、あさいまりさんの二人による「ミドラン木曜日」がスタート、1年後にあさいさんは番組を卒業しますが、みさこさんの新しい相方にはオガワマユさんが迎えられ、今では「ミドラン木曜日」は「ボケのオガワマユ、ツッコミのつだみさこ、でも両方ともピアノ弾き語りシンガー・ソングライター」という二人が作り出す、可笑しくも心温まり、良い音楽とお酒好きな二人ならではの「酒の肴」が紹介される番組になりました。因みに同じピアノ弾き語りシンガー・ソングライターでありながら、T氏が引き合わせるまで、みさこさんとマユさんは全く面識がなかった、というのですから、これはちょっとした奇跡、「みっけもの」だったと言ってよいでしょう(マユさんについてはこちらの記事も是非ご覧ください)。

またちょっと話が逸れてしまいました。

みさこさんが作り、歌う曲の特徴のひとつが「詞(ことば)あそび」にあります。
私が最初に知ったみさこさんの作品『ガトーアリ』もそのひとつです。感謝の気持ちを伝えるために、みさこさんのライブでは本編最後に演奏されるこの曲。もちろん「ありがとう」の文字を並べ替えたものですが、『ガトーアリ』とすることで、サビでこの言葉が繰り返し歌われると、何だか呪文のように聞こえてきて、そのうち聴き手は「ありがとう」とはっきりと聞き取れることになるのです (現在は出演者のライブ会場でしか入手できませんが、K-mixレーベル第一弾DVD『HELLO FROM THE PIANO TOWN』には、この傑作ライブ映像が収められているので、是非お買い求めを!)。

他にもみさこさんのセンスが溢れた「詞あそびうた」があります。
その名も『ひとりことばたび』。
この曲はこんな詞で始まります。

 

いとこのいいとこ やなとこ やなこと ちいさな こころ
さなぎのおさなさ なかさはさかさま おさかな をかさね おおきな うみに

 

そしてサビはこんな感じ。

 

あかいあたまに あかしあの 花を
あたしのあなたに かんしゃの 花を
あげたい あげあいたい 愛とか ただ
あいたい あいたい うれしい おかおで

 

ピアノから紡ぎ出されるゆったりとしたメロディーに乗り、静かに、でも力強く歌われる『ひとりことばたび』は、みさこさんの傑作のひとつだと思っています。この曲をよいピアノの音色と素晴らしい音質、そしてひたひたと心に迫る「よい緊張感」でお楽しみいただける『HELLO FROM THE PIANO TOWN PETIT』(2019年8月12日 カワイ浜松コンサートサロン「ブリエ」で行われたみさこさんとマユさんのツーマン・ライブの実況盤)は、現在WEBでもお買い求めいただけます。傑作ですよ!

この2曲以外、例えば『ご先祖様のうた』には、聴いていて癖になる詞の使い方が溢れていて、この曲はタイトルと歌詞の強い結びつきを感じさせる作品です。

 

みさこさんとみさこさんの「詞あそび」について徒然と語ってきましたが、私の近くにはもう一人、「詞あそびの達人」がいらっしゃいます。

小椋佳さんです。

小椋さんと私の関係についてはこちらをご覧ください。

小椋さんの「詞あそびの達人」ぶりは、皆さんよくご存じの『うなぎのじゅもん』を例に取れば、極めて単純明快にご理解いただけるでしょう(是非、小椋さん公認のSTARMARIEの動画でお楽しみください)。

 

うさぎのうなじ うわぎのうらじ
うなぎのうまみ うなぎのげんき
こんき ゆうき ほんき
うなぎ パイパイパイ

 

先ほどみさこさんの『ガトーアリ』を「呪文」と言いましたが、こちらはまさに「うなぎのじゅもん」です。「う」と「き」という二文字を韻として用いて、しかも楽しく明るい希望が持てる歌に仕立て上げる、という小椋さんの狙いが明快に伝わってくる「詞あそび」の傑作です。

 

小椋さんの一番新しいアルバム『闌(たけなわ』(小椋さん自身は、「最後のCDアルバム」とおっしゃっていますが・・・)は、「詞あそび」に満ち溢れた作品です。
例えば『幾度か旅行く』という曲の歌詞はこんな感じです。

 

 

幾度か旅行く 東北は北東 客船の船客 流氷で漂流
西南は南西 奥山の山奥 草原の幻想 西洋の妖精

 

と、二文字の漢字からなる単語の音(おん)を入れ替えた言葉の連なりから、この歌詞は成り立っています。

また『まさか逆さまの詩(うた)』は、このタイトル「マサカサカサマ」通り、「回文」のみで成り立っている作品です。

 

陸路で六里 家内は田舎 神すむ住処 住まい訪います
貴き生き方 啄木鳥突き カラス安らか 懇意のインコ

 

といった具合に全96個の回文が並びます。

更に『闌』には、『あいうえお 75字の詩』と『あいうえお 81字の詩』という2曲が収められています。
この2曲は、それぞれ日本語の50音(実際には「や行」の「い」「え」、「わ行」の「ゐ」「う」「ゑ」を除き、「ん」を加えた46音)の清音に、濁音と半濁音、そして小書きの「ゃ」「ゅ」「ょ」と促音の「っ」を加えた75文字、さらにそこに小書きの「ぁ」「ぃ」「ぅ」「ぇ」「ぉ」、そして「ゔ」を加えた81文字、それぞれを1回しか使わずに歌詞を作って曲にする、という我々凡人には思いもよらない(発想できたとしても、作ることなど到底無理!)作業によって作られた作品です。言わば現代版「いろはうた」

色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず

です。
敢えて歌詞は掲載しませんが、是非ネットで検索して
その凄さを体感していただきたいと思います。

このアルバム『闌』がリリースされた2013年当時、レギュラー番組「小椋佳の歌とともに」で小椋さん自身のコメントとともに、これらの「詞あそびうた」をオンエアしましたが、その時、小椋さんはこれらの曲の歌詞を「4、5日で考えついて書いた。」とおっしゃっていました。さらに「若い頃に較べて、詞を作るのにだいぶ時間がかかるようになってしまい、捻りだすのが一苦労だ。」とも・・・。
もう言葉はありません。

 

3月13日、つだみさこさんは「茶の間  Vol.9」で、これまたおもしろい「詞あそびうた」を初披露しました。
『ポッキーゲーム』という名の曲です。
この曲が披露される前に「前提」が、みさこさんから観客に伝えられます。

 

目の前に何百本ものポッキーがあります。
これから「ポッキー」のように「ッ・っ」(促音)の入った言葉を
1回歌う毎にポッキーが1本食べられます。
あー、お腹が空いた。

 

そして、曲が始まるとまさに促音の入った言葉が次から次へと登場し、「ポッキーは食べ尽くされてしまいましたとさ」といった感じで曲は閉じられます。
正直、どんな言葉が何個登場したか、記憶が定かではなく、「とにかく沢山、しかも鮮やかに、巧妙に」としか言えず、もし記憶が鮮明に残っていたとしても、ネタバレになってしまうので、『ポッキーゲーム』を聴きたかったら、そして圧倒されたかったら、是非みさこさんのライブに足をお運びください、とのみ申し上げておきましょう。
そう言えばこの曲の発想をみさこさんは、好きな古典落語から得た、と言っていました。皆さんはどんな噺か想像がつきますか?

さて、この日のライブ終演後、私はみさこさんに以前少しだけ相談した「とあるイベント」についてお話をしました。今日の午前中にその主催者から連絡があって、開催が現実味を帯びてきた、と。そして改めて出演オファーを出しました。みさこさんも大変興味を持っているイベントです。
さらに浜松から東京へ向かう途中の新幹線の中で、このイベントの目的をさらに有意義なものにするための「ある企て」を思いついてしまい、みさこさんにお話ししました。
「(毎度のことで申し訳ないですが)思いついたら、口にしないわけにはいかない性格なもので。」と申し添えて・・・。

さらにみさこさんとは、今月28日、東京交響楽団の『マタイ受難曲』公演が行われる、まさにその日の午後、東京某所で「ある方」と3人で打ち合わせをすることにもなっています。

新しいことがK-mixで始まります。

それは私にとっても大変刺激的で新しいジャンルへの「挑み」です。みさこさんにとっても「有意義な挑み」であることを願っています。

つだみさこ。

ここにもひとり、わたしのクリエイティヴィティを刺激する「表現者」がいます。

 

 

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