ソクラテスの産婆術

私が大学の哲学科でギリシア哲学、特にプラトンについて学んでいたことは、このブログの1回目の記事で触れました。「何故、哲学を学ぼうと思ったのか?」を語り始めると長くなってしまうので、今日はそこで学んだことが今の仕事にどう影響しているのか?さらに言ってしまえば、そこで知り得たことが、その後のラジオマンとしての私の存在意義に大きく関わっている、ということについてお話ししたいと思います。

プラトンという人は師であるソクラテスを登場人物にし、彼がアテネの知識人たちと交わす言葉により、「真理とは何か?」ということについて多くの著作を残しました。その戯曲のような手法で描かれた彼の著作は「対話篇」と呼ばれています。
ソクラテスはひとつも自身の著作を残さなかったので、プラトンによって描かれているソクラテスの考え方が、どこまで彼自身のもので、どこからがプラトンのものなのか?ということについては議論の分かれるところですが、いずれにしてもプラトンの見事な筆致によって、特に初期対話篇はさほど多くの哲学的知識がなくても読み進めることができる文学的作品です。

そんなプラトンの「テアイテトス」という作品の中で、ソクラテスが知識人と問答しながら真理を導き出す手法(「問答法」と呼ばれています)を、「産婆術」に喩て説明している箇所があります。それを要約すると「助産師の仕事は、あくまで子供が生まれやすいように妊婦の出産を補助的に手助けすることであって、実際に出産し、子供を産み落とすのは、子供を身ごもっている母親自身の仕事である。それと同じように私は自ら知恵を産む力はないが,他の人々がそれを産むのを助けてその知恵の真偽を識別することはできる」ということになります。

この比喩は正に私がK-mixに入社してからずっと続けていることに当てはまります。

私は子供時代、高校生の頃までピアノを始めとした楽器をいくつか習っていました。そして中学生時代、クラシック音楽に目覚め、以来ずっと聴き続けている一方で、将来、音楽家として生活したい、できれば指揮者になりたい、と思った時期がありました。しかし、その思いとは裏腹にどうしたことか「楽器を演奏する」というセンスが著しく自分に備わっていない、ということに気づかされました。そもそも私は練習が大嫌いで、上達しようという意志を持ち合わせていませんでした。
でも、音楽を聴いたり、音楽について友達と話したりするのは、クラシックに限らず大好きでした。
そこで思い至ったのが「音楽の素晴らしさ、アーティストの素晴らしさを人に知ってもらう仕事に就きたい」ということでした。
新聞社や出版社に入って音楽関係の記事や文章を書く、レコードメーカーに入って制作や宣伝の仕事をする、テレビ局やラジオ局で音楽番組を作る・・・、というあたりが大学を卒業して私が進むべき道なのでは?と高校時代、大学受験を意識し始めた頃、その思いを強固にしたように記憶しています。

そして、結果として1987年4月に私はK-mixに入社することになったのです(私の就活やK-mixとの出会いについては、いろいろと面白い話があるので改めてお話しします)。

私はアーティストでもパーソナリティでもありません。ディレクターでありプロデューサーであり、自分が矢面に立つのではなく、放送、番組を陰で支える存在です。一緒に仕事をするアーティストやパーソナリティの魅力をどうしたら多くの人に知ってもらい、気に入ってもらえるのか?ということを常に念頭に置くことから私の仕事が始まります。
どうでしょう?これは「ソクラテスの産婆術」と同じ理屈ではないでしょうか?

私は素敵な声でお話ししたり、リスナーのメッセージを紹介するのでもなく、人の心を震わせる曲を書いて歌うわけでもありませんが、それらを引き出して人々に紹介することはできます。そしてそれに生きがいを感じています。

 

でも、すべてのアーティストやパーソナリティが私にそういう気持ちを起こさせるわけではありません。一言で言えば「私のクリエイティヴィティに刺激を与える人」が私を奮い立たせくれるのです。その「刺激」とはその人の声、曲、詞、キャラクター、センス、考え方、生き方などなど様々な種類がありますし、すべてが似通った刺激でもありません。

では一体、私はこれまでどういった刺激を受けて、その人たちと一緒に何をやり遂げようと思ったのでしょうか?

このブログを開設した大きな理由のひとつが、それをお話しさせていただくことにあります。

 

次回は、これまで量と質の両方で、私を最も刺激し続けているアーティストについてお話いたします。

 

 

 

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