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POPの申し子

今、それまで知らなかったアーティストや楽曲に巡り合う手段はネット、データが主流になりつつあるのは周知の事実です。それは音楽ファンだけでなく、我々のように音楽を人に紹介することを生業としている者にも当てはまります。

放送局とレコード・レーベルの関係は「持ちつ持たれつ」が基本です。レーベルは番組でオンエアして欲しい自社アーティストの音源を「サンプル盤」として放送局に無料貸与し、番組制作者はその中から掛けたい曲を選曲する、というのが従来の在りようです。レーベルは曲がオンエアされれば、それを大きな宣伝効果と考え、放送局は経費をかけることなく、言わば「番組制作に欠かせない資材」としてのサンプル盤を得ることができる、という仕組みです。

私がこの仕事に就いた30年ほど前はバブル絶頂期。レコード・メーカーも羽振りがよく、多くのメーカーの宣伝担当、媒体担当が名古屋や東京から浜松に足繁く通い、少し乱暴な言い方をすれば「サンプル盤をばら撒いて」いました。

それから時が経ち、バブルも弾け、リーマンショックに襲われ、さらに「娯楽としての音楽」は、PCやスマートフォンを媒介とするゲームなどにその地位を侵され、さらに音楽自体もCDやDVDで接するものではなく、パッケージはネットでの音楽、動画配信に取って代わられ、しかも場合によっては、それらが無料で楽しめる時代へとシフトしてきているのです。

一般消費者の音楽への接し方が変わるのと並行するように、レーベルの放送局への音楽の供給方法も変化していきます。「パッケージが売れない」という現状に即した「経費削減」という名の下に・・・。

まず、配布されるサンプル盤が限られたスタッフにしか手渡らなくなり、「本サンプル」と我々が呼ぶ、製品盤(発売品)にサンプル・シールが貼られたものではなく、CDあるいはCD-Rは簡易な薄いプラケースや不織布、ビニール・ケースに入れられ、ブックレットの代わりにその作品やアーティストについて書かれた文章やジャケット写真やアーティスト写真、歌詞などがプリントされた紙資料が渡され、それでおしまい、ということも珍しくなくなりました。

そして、それらをレーベルのプロモーターが直接届ける頻度は減り、配送されることが多くなっていきます。直接届ければ、当然プロモーターはその音楽やアーティストについて、まさにプロモーションします。逆に配送されるだけになってしまえば、そのプロモーターの「熱い思い」を聞くことはありません。

さらにこの「無人化」は加速し、CDという形からも離脱し、レーベルからデータファイルがメールで送られたり、放送局向けWebサービス「DirectorsGear」なるものも登場し、会員が自由にWeb上で音楽を聴いたり、使ったりすることができるようなってきています。

20代、30代の若い番組制作者にとっては、むしろそれが自然で、「音楽は届けられるもの」ではなく、「自分で取りに行くもの」になっている、ということが言えそうです。

 

さてさて今日はここまで書いてきて「音楽ソフト論」とでもタイトルして、記事一丁あがり!と、おしまいにするわけではありません。

今お話ししてきたことはここ最近のメジャー・レコード・メーカーの現状です。一方でインディーズやアーティストの自主レーベルでは、当然メジャーのように直にプロモーションするような予算は元々ないので、放送局の制作スタッフにCDやCD-Rを紙資料と一緒に配送する、というケースがまだまだ多いのです。ネット上にただ音源をアップし、「番組制作者に取りに来てもらう、探してもらう」というメジャー・レーベルと同じやり方では、アーティストの名前が知られていない分、その音楽が届く確率はグッと低くなってしまうから、というのがその理由のように思います。

私のところにも毎日毎日、結構な数のCDが送られてきます。既に名前を聞いたり、動画を観たり、場合によってはライブを観たりしたことのあるアーティストももちろんいますが、初めて目にする耳にするアーティストの方が多いと思います。

さらに私個人に送られてくるのではなく、「K-mixご担当者様」「番組制作ご担当者様」とか「レコード室御中」といった感じで、「とにかくK-mixの誰かに届け!」とばかりに個人名なしで送られてくるCDも相当あります。

多分、送り主はK-mixだけでなく、全国各地の放送局にCDを送っているのです。「もしかしたら100人中、1人か2人は気に入って、オンエアしてくれるかもしれない。」という微かな望みを託して・・・。

個人名宛でない封筒に入ったCDは、ほぼ私の郵便ボックスに入れられることになっています。私はその日に届いた沢山の封筒をひとつずつ開封し、中に入っている送り状、CD、資料に一通り目を通します。しかし、それらのCD全てに耳を通すか?と言えば、答えは「NO」です。申し訳ない気持ちではありますが、そこまで行う時間がありません。

私が資料に目を通し、そこに書かれているアーティストのプロフィールなどの情報を見て、例えば「自分の音楽嗜好に合いそうだな。」とか、「今、流れが来ているジャンルや音楽性のアーティストだな。」、あるいはまた「静岡県民の音楽嗜好にマッチしそうだな。」(「静岡県民の音楽嗜好」というのがどんなものなのか?というのは、とても大きなテーマなので、別の機会に記したいと思います。)とか、はたまたジャケット・ワークとかアーティスト本人のヴィジュアルが気に入って、というような理由で選ばれたCDがプレーヤーのトレイに乗ることになるのです。

 

2010年3月、東京で複数のライブハウスを運営する会社が展開する音楽レーベルから、CDが入った封筒が「担当者様」宛で届きました。

Contrary Paradeという女性3人男性1人の4人組バンドの「ファンファーレ」というミニアルバム。コラージュでカフェかブティックの店先を描いたようなジャケットが、CDに収められている音楽もカラフルなんじゃないか?と想像を膨らませます。紙資料を読むと、大阪で結成され、最近東京にその活動の場を移してきたことと、ソングライティングはヴォーカル&鍵盤の田中麻友さんが中心になって行われていることがわかりました。そして資料に何回か現れる「POP」という言葉・・・。ヴォーカル&ギターがキーマンのギター・バンドでなく、ピアノをベースにした、しかも女性ボーカルのピアノ・ポップ・バンドというのは、完全に私の守備範囲、というか直球ど真ん中!

1曲目の「ジュブナイル」のイントロ。ギターから始まり、すぐにメロディーが鍵盤によって奏でられます。もうこれだけで充分ポップなのに、それに続いて聴こえてきたヴォーカルに「えっ!」という軽い衝撃を覚えたのです。地声なのかファルセットなのか、どちらかわからないような不思議な、でも、心にスッと入ってくる歌声。そして、そのメロディーとアレンジは「スピッツにかなりインスパイアされているのかな!?」と思わせる、どこか懐かしさを覚えるもの。でも、ただのスピッツのモノマネではなく、ピアノの音が曲の根幹にあることと、独特の歌声だからこそ感じられる「外の世界への広がり」と、その真逆の「人の心の奥底へ忍び込んでくるようなちょっとした淋しさ」が同居しているような世界があるのです。「この田中麻友って何者?」と思い、私は資料に書かれていたアドレス宛に「とてもとても気に入りました。現時点では今年一番の音楽的発見、出会いです。是非一度ゲストに来てください。」とすぐさまメールを打ちました。

こうして、現在はたなかまゆさんの一人ユニットとなり、そして「K-mix Midnight Rendez-vous “ミドラン”」7月10日放送回を最後に産休に入ったコントラリーパレードに、私は出会ったのです。

 

2010年初夏、初めて会ったまゆさんは、どう考えてもおしゃべりが上手、得意という人には見えませんでした。でもそんな彼女とメンバー3人、そしてスタッフに私は「10月からレギュラー番組をやりませんか?」と声をかけました。彼女たちが何故それを受けたのか?そもそも明らかに人見知り屋さんで、歌声とは打って変わって、低い声でボソボソと関西弁でしゃべるまゆさんに番組をやってもらおうと思った私は、一体何を考えていたのでしょうか・・・?

前回、前々回のブログでお話しした「私のクリエイティヴィティを刺激するもの」、まゆさんの場合、それはその時点でのおしゃべりの力ではなく、ただただ彼女が作る歌の凄さだったのです。こんなにポップな曲を作るたなかまゆという人と世間を結びたい、と思ったのです。

「K-mix 8×8〜Contrary Paradeの音楽準備室〜」「K-mix Maison de Ami」、そして「K-mix Midnight Rendez-vous “ミドラン”」と続いてきたコントラリーパレードのレギュラー番組。その過程でまゆさんは、どう見ても彼女とは不釣り合いの100kgオーバーの図体を持った野暮ったい、でも「POP」という点ではどこか同じ方向を見つめている“知られざる天才”、岡田ピローという男と出会うことになるのです。

そして、そのふたりの「POPの結晶」が意外な形で、世に紹介されることになります。

2018年6月にリリースされたSexy Zoneのシングル「イノセントデイズ」のカップリング曲「Twilight Sunset」。これはまゆさんとピロー君、ふたりによる共作曲です。自分たちが歌わず、他の人に提供した曲だからこそ、余計にそのPOPさが引き立っていると思わせる珠玉の名曲です。

また、ピロー君、そしてピロー君と共に岡田寝具として活動するようになったばばばびお君、ふたりの存在が、まゆさんの「グータラな年下の男ふたりの面倒をよく見る姉さん気質で、ちょっとSな“尼崎の女”」というこれまで隠されていたキャラクターを引き出すきっかけになったことも、大きな副産物と言ってよいでしょう。音楽とおしゃべり両方でのケミストリーが起こったのです。

 

さて、9年余り前のあの春の日、「ご担当者様」宛に届けられた「ファンファーレ」という1枚のアルバムが、私の手元に転がり込んでくることがなかったら・・・。

コントラリーパレードは私にとって、「未知の音楽、未知のアーティストと出会い、それを世に知らしめたい。」という、ラジオマンとしての大きな喜び、使命のひとつを強く強く認識させてくれたという点で最高の、そしてとても大切なアーティストなのです。この出会いに感謝したいです。

「POPの申し子」。

これはkainatsuさんがコントラリーパレードを評した言葉です。名コピーライター!!!

2010年9月末、コントラリーパレード、K-mix初のレギュラー番組スタート直前に行われた東名高速浜名湖SAのライブ・イベントで出会ったふたり。

まゆさんが産休育休から戻ってくるそれほど遠くないいつの日か、またふたりが一緒のステージに立つこと、そして、そこが「POPのサンクチュアリー」になることを心待ちにしたいと思います。

 

こちらは最新の双子ミニアルバム「PARADE」(上)と
「CONTRARY」(下)

 

 

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