「パーソナルなメディア」と言うけれど・・・。

ラジオのことを「テレビと違って、ラジオは自分ひとりに話しかけてくれるメディアだと思う。」とか「パーソナリティと1対1のコミュニケーションができるのが楽しいし、それで元気づけられたり、癒されたりする。」とおっしゃる方は多いと思います。
実際、「ラジオ局で働きたい。」「ラジオ・パーソナリティになりたい。」と思い、K-mix の採用募集に応募される方のほとんど(以前と比較して、その人数は右肩下がりになっていると言わざるを得ませんが)、その志望動機としてこのような言葉を履歴書に記入したり、面接でお話しされたりします。
確かに「パーソナルなTWO WAY(双方向な)コミュニケーション」は、ラジオの一大特徴であり、自分ひとりでも成り立ち、実際の会話がなくても楽しめるネットやゲームなどの仮想現実のエンタテインメントとは大きく異なる、ラジオというメディアの強みでもあると言ってよいでしょう。

しかし「『ラジオはパーソナルなメディアである』というところにあまりに大きく、重いポイントを置き過ぎることにより、逆にラジオの持つ『不特定多数の、目に見えない人たちへ伝搬する力』という大切な役目、可能性を蔑ろにしてしまうのではないか?」と私が常々思っているのも事実です。

この「パーソナル」と「不特定多数」という両極のせめぎ合いの中、その両極をどう融合させ、高次元のレベルでバランスよく保つのか?というのが、ラジオ番組を成立させるための最大の難しさであり、パーソナリティはもちろん、ディレクターやプロデューサー、すべてのラジオマンの腕の見せ所でもあると思います。「だからラジオは聴くのも作るのも面白い。」と思う由縁でもあります。

私はK-mix で開催される「アナウンサー・セミナー」や「ディレクター・セミナー」での基調講演(ラジオ業界の現状と静岡県というマーケットの魅力、そこでラジオ放送するK-mix の目指すものとは?と言ったことについてお話しします。)や、大学や高校で行われる「職業」について勉強する総合授業などにお招きいただいた際に、必ずお話しする「あるエピソード」があるのですが、まさにこのエピソードは「パーソナル」と「不特定多数」の問題を見事に解決した実例なのです。


もう今から25,6年前の出来事ですが、その時私は夕方から夜にかけての生ワイド番組のディレクターをしていました。一緒に担当していたパーソナリティMさんは、前年の秋に入社したばかりの20代前半の女性、決してキャリアが豊富というわけではありませんでした。


3月もそろそろ終わろうとしていた年度末のある日、この番組宛に、静岡市に住むひとりの高校3年生・男子から以下のような趣旨のメッセージ(当時はメールなどない時代だったので、FAXだったと記憶しています。)が届きました。

 

  • この4月に山梨県の大学に進学することになった。
  • だから、今月いっぱいでこの番組を聴けなくなってしまう(radikoなど考えられなかった時代)。
  • 5月の連休や夏休みに帰省したら、また番組を聴いて、メッセージも送る。


このメッセージを紹介したMさんは、それに対して今度は自分のリターン・メッセージを送ることになるのですが、果たして彼女がどんなメッセージを送ったと、皆さんは思われますか?少し想像してみてください・・・。

 

 

 

 

 

Mさんはこう言いました。

 

「今君が住んでいるところからも富士山が見えると思います。そして、4月から住むことになる場所からもきっと富士山が見えるでしょう。今まで見てきた富士山とこれから見る富士山がどう違うのか、静岡県側と山梨県側でどう見え方が違うのか、今度帰省した時に教えてください。」

 

ミキサーの前に座っていた私は、ごくごく控えめに言ってとても心を揺り動かされました。

この言葉の凄いところは、メッセージをくれた男の子本人のメッセージをしっかり受け止め、それに応えてあげているのはもちろんなのですが、さらにそうではない彼以外の何百、何千という目に見えない不特定多数のリスナーの頭の中に、「静岡県側から見える富士山」と「山梨県側から見える富士山」という絵を描かせてみせたところにあります。
宝永山が右側に見える静岡県中部からの富士山、駿河湾と薩埵峠越しに見える広重風富士山、裾野の広がりをしっかりと捉えられる富士川から眺める富士山、本栖湖や山中湖に映し出される逆さ富士・・・。このMさんのリターンを聴いて、いろいろな人がいろいろな富士山の姿を想像したことでしょう。

決してメッセージをくれたリスナーひとりとのパーソナルな関係性を築いただけではなく、同時に不特定多数のリスナーとも「見える富士山」という視点でコミュニケーションが成立したこと、「パーソナル」と「不特定多数」の問題を見事に、そして美しく解決した実例です。

 

現在のK-mixのパーソナリティたちに、皆さんはそんな力を感じていただいておりますでしょうか?(少しばかりパーソナリティにプレッシャー・・・。)

 

さて、このようなコミュニケーションの力と並び、そしてこのコミュニケーションの力と深く関係する「想像力を刺激して、駆使させて、それを育む」という、ラジオの持つもうひとつの特徴である「想像力」ということについては、そう遠くないまた別の機会にお話ししたいと思います。

 

投稿をシェアする

LATEST BLOG

いつでも、どこでも、K-MIX!

ラジオで聴く

  • 静岡

    79.2MHz

  • 浜松

    78.4MHz

  • 沼津三島

    86.6MHz

  • 掛川

    80.3MHz

  • 島田

    85.9MHz

  • 富士富士宮

    85.8MHz

  • 下田

    80.5MHz

  • 東伊豆

    78.6MHz

  • 御殿場

    81.6MHz

  • 熱海

    83.0MHz

スマホ・タブレット・PCで聴く

県内のラジオ、過去1週間分無料。
プレミアム会員で全国配信。

→ radiko 公式サイト

RADIO

現在地の周波数に
チューニング

radiko

県内のラジオ無料
プレミアムで全国配信