マジカルオガワマユ

前々回に続いて、K-mix 初の映像パッケージとなるDVD「A Day Of HELLO FROM THE PIANO TOWN」関連のお話しを・・・。 

このDVDのライブ部分は「K-mixでレギュラー番組を担当する7名の女性ピアノ弾き語りシンガーソングライターが、KAWAIのShigeru Kawai SK-5を弾き継ぎ、歌う。」という、とてもシンプルでありながら、7名の音楽表現を贅沢に聴き比べ、味わえるということをメイン・コンセプトに据えて制作されています。
そのコンセプトを具現化するために重要な作業のひとつに「7名の出演順を決定する」というのがあります。これはこの企画の発案者であり、制作総指揮を担当する私の、唯一且つ最大のタスクと言っても過言ではないものだと思っていました。そして私が決めた出演順の流れも含めて、7名のパフォーマンスをどう映像として切り取るかは、鈴木研一郎監督の仕事の領分です。

7名のアーティストそれぞれが30分という与えられた持ち時間の中で、「どの曲を、どのような順序で演奏するか?」「今回の特別な企画の中で、SK-5というピアノに向き合って、私は何を表現するべきか?」という、いわゆるセット・リスト(セトリ)作りは、アーティストが決めることで、私が口を差し挟むことではありません。いや、もし口を差し挟むことが権限上許されていたとしても、私はその権限を行使するつもりは全くありませんでした。何故なら、この企画を考案し、7名にその意図をお伝えした段階で、全員が私の意図をしっかりと汲み取っていただき、それを自分なりに表現してくれることは間違いないと思っていました。そして「こちらの意図がどう伝わって、それがセトリという形でどう表されるのか?」というのは、言わば「言葉のない伝言・連想ゲーム」で、それこそがこのコンサートの醍醐味のひとつであって、企画首謀者たる私の最大の個人的楽しみと思っていました。

それに対して、出演順を決めるというのは、言わば私の「職務上の権利と責務、専権事項」ということになります。これについては私は7名にはもちろん、この企画に関わっていただいたスタッフに一言も相談していません。大それた喩えかもしれませんが、それはかつて小泉純一郎元首相が組閣をする際、自室に缶詰めになって国会議員便覧をよくよく眺めながら、誰の助言もなく大臣を決めていった、というのに似てなくもないと思ったりします。
ただ小泉さんとは少々異なっていたであろうと思うのは、7名の出演順を決めるのに、3分とかからなかった、ということです。私は、このコンサートの様々な告知物に記載されていた出演者の便宜的(意味のない)順番、つまり「井上 侑・コントラリーパレード・つだみさこ・オガワマユ・遥奈・TOMOO・kainatsu」という文字列を一瞥し、すぐさま各アーティストの名前のところに、1から7までの数字を振りました。本当にあっという間の出来事でした。
では実際にどんな出演順になったのか?ということについては、3月2日にspace-Kに足をお運びいただいた方と、このDVDをご覧になった方のみぞ知ることで、ネタバレ禁止という意味でもお話はいたしませんが、ひとつだけ今日はお伝えします。

それはこの日のトップバッターが、オガワマユさんであった、ということです。

 

オガワマユさんがK-mixでレギュラー番組を担当することになったのは2018年4月のことなので、この時点で7名の中ではTOMOOさんと同じく、K-mix歴は最も短い1年弱、ということになります。そしてレギュラーをお願いするまで、私はマユさんの音源を聴いたり、動画を観たりしたことはありましたが、ライブを観たことはもちろん、お会いしたことはたった一度もありませんでした。
しかし、マユさんは既にK-mixアーティストの中では“重鎮”(!)であったコントラリーパレードのたなかまゆさんと仲良しで、マユ×まゆ同士で「あまタソ」という“ゆる~い”ユニットを結成し、楽曲・音源制作やライブをしていることも知っていましたし、まゆさんと「K-mix Midnight Rendez-vous“ミドラン” 」の水曜日でタッグを組む岡田ピロー君が、マユさんの『炊き込みごはんとわたし』という曲のアレンジをしていることも知っていました。そして一度マユさんが「 ミドラン水曜日」にゲスト出演したこともありました。

そんな折、2017年4月から始まっていた「ミドラン」の木曜日のつだみさこさんのパートナーを諸事情により変更するという話が持ち上がりました。元々みさこさんを紹介していただいた音楽系出版会社「シンコーミュージック」のT氏から、「つださんの新しいパートナーに、オガワさんはどうでしょうか?」とご提案をいただき、一も二もなく「それはいいですね!」と言って、マユさんとみさこさんをマッチングさせ、「新生ミドラン木曜日」は2018年4月にスタートしたわけです。

みさこさんとマユさんというピアノ弾き語りシンガーソングライター・・・。実はありそうでない組み合わせ、しかも、みさこさんとマユさんはそれまでほとんど面識がないという状況。なので最初はギクシャクするかもしれないけれど、未知な世界が広がったり、ふたりの間でケミストリーが起こって、1+1=2でなく、3,4,5になる可能性みたいなものを直感し、「これは“実験”としてはとても面白いものになるのでは?」と直感しました

この直感は音楽の部分でもおしゃべりの部分でも見事に的中しました。

みさこさんの言葉を待つまでもなく、マユさんのトーク最大の武器は「ぶっこみ」です!話が順調に流れていたかと思と、みさこさんも、そしてリスナーも「!?!?!?」と思う、どこか別の星から飛んできたような、予想だにしなかった発言が飛び出すのです。これを「天然」と呼ぶのは簡単ですが、私はむしろそれを「感性の広がり」と捉えています。

それはまさにマユさんの作る音楽にも共通するところだと思っています。

 

以前から私はマユさんの音楽を「マジカル」という言葉で表現してきました。彼女本人にもそう伝えています。マユさんはその「マジカル」という言葉の意味するところが何なのか?良い意味なのか?と気になってしようがない様子でしたが、6月にリリースされたばかりのアルバム『Belle Epoque』の音源を早々と聴かせていただき、その感想をメールでお伝えしました。

 

「マユさん
アルバム、じっくり聴かせていただきました。
『やっぱ、マジカルだわ!』と思いました。
何だか、決して刺激の強い原色ではないんだけれど、いろいろな色の光(スペクトラム)が四方八方に放たれていて、でも、それが結局は一つにまとまって、聴く者を射抜く、という意味です。はい。
個人的には『not yet』をライブのオープニングで聴きたいな、と思いました。いい曲です!」

 

マユさんが作り、歌う曲の数々、そしてマユさんの歌声そのもの、弾くピアノは、いろいろな表情を持ちながら、360度全方向にベクトルを放っている気がします。しかもそのベクトルは方向だけを表現するだけでなく、様々な色を持っているのです。さらにそのベクトルを分解すると、そのベクトル自体にもスペクトラム状、虹状の光の成分が含まれていることを強く感じます。これを私は「マジカル」と呼んでいるわけです。

具体的な例を挙げてみましょう。

私がマユさんの「マジカルさ」が分かり易く表現されていると思っている、まったくタイプの異なる2つの名曲があります。

『summer pocket』(4thアルバム『harmonia』収録)。

この曲を初めて生で聴いた時の、特にサビ前からサビに入る部分の「持って行かれる」感は尋常ではありませんでした。ピアノと声だけで、目の前の視界を一気に開かせるような壮大さを作り上げ、そこに聴き手を飛び込ませるような力がこの曲にはあります。そこに含まれている「夏の青」(聴く人によってその青色もいろいろな「青」で、グラデーションを伴っているかもしれません。)、そして「光のような眩しい白」も伴って、聴き手をまさに「マジカルな世界」へ引き込んでいくのです。

 

『定点観測』(3rdフルアルバム『I am I』収録)。

「疾走感」、そしてマユさんの音楽を表現する際の大切な言葉「幾何学」感。この曲を聴いてまず耳を奪われるのはその点です。また、この曲ほどピアノ弾き語りで聴いた時と、音源化されているバンド・アレンジで聴いた時に受けるイメージが異なる曲もあまりないような気がします。曲のリズム、そしてバンド(ブラス)・アレンジはマユさん曰く「スカ要素を取り入れてみたくなって・・・。」ということですが、そのリズム感とブラスの音色が、これまた様々な色の光が四方八方へと飛び散って行くようなイメージを膨らませてくれます。それはある定点から音や言葉が様々な方向へと放たれていくように・・・。

 

『定点観測』へのマユさんの思いを聞いてみたところ、こんな言葉が返ってきました。

 

「この曲についての想いというのは、暗いというか怒りがあり、あまり良い印象のことがお話しできないのですが、『全部わかっているつもり』で『自分を正しいと思っている』人へのアンチテーゼとして書いた曲です。
人間の目は空についているわけではないのに、自分の2つの目でしか世界を見れないのに、全部見渡せていると思うな~という・・・。定点観測というのは、自分の目から見る(定点)世界のことです。結局、みんな自分の目で見て、選んで選ばされていくしかない、そんな歌です。」

 

無茶苦茶、共感します。

私が常々、「そういう人間にはなりたくない。」「そんな奴らとは交わらない(でも、交わらなければいけない時がほとんどなのですが)。」と思うのはこんな人です。

 

「ひとりの人間が持つ脳ミソの容量はちっぽけであるはずなのに、そのちっぽけな脳みそが考えたことを、外に向かって放り投げ、さもそれがすべてを表す真理のように披瀝し、それを押し付けて、結局、多くの人から『あの人、ちっぽけな人間だよね。』と囁かれ、そんな空気を知ってか、いつの間にやらその真理と思い込んだことをスッと隠して、無かったことのようにする人間。」

 

思いのほか、世の中はそんな人たちで溢れ返っていると思うのは私だけでしょうか?

 

話が逸れました。
でも、『定点観測』の詞は、人間の多様性とそれぞれの限界を知った上で、なおもひとりひとりが持つ「責任」と「自由」について、考えさせる力が備わっていると思います。

 

さて、話は「A Day Of HELLO FROM THE PIANO TOWN」に戻ります。

私がオガワマユさんにトップバッターをお願いした理由は、まさにマユさんの持っている「持って行く力」「引き込む力」「放つベクトルの強さと色」にありました。彼女の圧倒的歌唱力とピアノの音色で、会場に集まった人々の気持ちを一気に高めたい、ステージに集中させたい、と思い、その役目は7人の中でマユさんにこそお願いするもので、プレッシャーのかかる中、マユさんならそれをやってのけてくれるから、と信じていたからにほかなりません。

マユさんはセトリの1曲目に「music.」という曲を持ってきました。彼女の音楽に対する思い、スタンスを歌った曲です。先にも書いたようにこの曲を1曲目にやって欲しいなどと、私からは一切お願いしていません。彼女が今回のコンサートのトップを務める者として最初に演奏する曲、space-Kに最初に響き渡る曲として、この曲を選んだのです。

この「music.」という曲は通常の曲と較べたら、だいぶ長いイントロを持っています。静まった会場にゆったりとしたイントロがピアノで紡がれていきます。舞台下手袖にいた私は、マユさんがピアノを弾く後ろ姿を見つめながら、「今日のコンサートはこれで大成功が決まったな。」と小さくガッツポーズをしたことを忘れません。「持って行く力」「引き込む力」がとにかく半端ではないのです。

 

後日、7名それぞれがどの曲をDVDに収録するかを選択することになります。

その日の歌やピアノの出来、映像の撮れ高、そして、このコンサートの趣旨に一番相応しい曲は何か・・・?と、選曲の悩みの種は尽きません。
マユさんも相当悩んでいたらしく、メールで私に「どちらの曲がいいと思いますか?久保田さんの意見を聞かせてください。」と言って、助言を求めてきました。そのうちのひとつが『music.』という曲だったのですが、マユさん曰く「今回のコンサートの趣旨には『music.』が相応しいと思うけれど、さすがに1曲目で歌にもピアノにも“固さ”がある。それに対してもう1曲の方は、演奏的に『music.』より出来がいい。」ということでした。
しかし、私は何も考えることなくマユさんに「『music.』でしょう。」とすぐに返信しました。マユさんにとっては確かに“固さ”と感じる部分があることは、わからないわけではありませんでした。でも逆にその“固さ”も含めて、この特別なコンサートの始まりをアーティストが自覚するのはもちろん、観客、スタッフすべてが固唾を飲んで見守る、という空気感、そしてその空気がひとつのところに留まるのではなく、時間をかけてspace-Kに拡散され、柔らかい時の流れが、手に取るようにわかる感じといったら、それはそれは寒気が走るほど感動的なものに違いない、と私は思いました。
マユさんから尋ねられた時、彼女にここまでの話をしてはいませんが、彼女は結果『music.』を選曲してくれました。

どんなにこのパフォーマンスが凄かったのか?それはDVDをご覧いただいて、ご自身の目と耳で確かめて、感じていただくほかありません(ちょっと宣伝・・・)。

 

さて、そんなマユさんが「木曜ミドラン」の相方、つだみさこさんとツーマン・コンサートを行います(さらに宣伝)。
8月12日(月・振休)、会場はJR浜松駅南口から徒歩3分程度のカワイ浜松「コンサートサロン・ブリエ」です。
「K-mix presents つだみさこ×オガワマユ “ピアノのまちからこんにちは・プチ”」と題されたこのコンサートは、3月の「ピアノのまちからこんにちは」の成功を受け、来年の2回目開催を目指し、その道標としてふたりのピアノ弾き語りシンガーソングライターに登場してもらい、集っていただいた方々に濃密な時間と空間を味わっていただく、という趣旨の下に開催されるものです。出来ればシリーズ化したいと思っている企画です。

この企画のアイデアの源泉になったのは、昨年8月に東京・東新宿のライブハウス「真昼の月 夜の太陽」で行われた、みさこさんとマユさんのライブ・イベントでした(ゲストにはコントラリーパレード(たなかまゆさん)が参加)。そこで展開された、おそらくこのふたりにしか出来ない演奏やトーク、絡み方・・・。それはとても素敵な時間でした。

それをさらに発展させ、なおかつ、Shigeru Kawai SK-7という、とてつもない包容力があるであろうグランドピアノとともにお届けするのが今回のコンサートです。ふたりによる番組内ユニット「モクヨス」の新曲発表とCD販売もあります。お盆休みのひととき、是非お楽しみいただければと思います。

 

 

最後に、2019年3月2日、オガワマユさんとkainatsuさんは、この7名の間では珍しく、互いの生演奏を初めて聴いたのですが、コンサートが終わった後、なっちゃんがマユさんのことを大絶賛していました。コンサート直後、私が一番うれしかったのはこのことでした。

 

 

 

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