「必要とされる」ということ

「ロス」という言葉が好きではありません。いや、正確に言えば、“ロス状態”であることを告白し、それを理由にノスタルジーに浸ったり、これから先、目の前に現れるであろう新しいものを見つめたり、あるいは未知のものを探そうと敢えてしない人の考え方に、私は全く組みできない、と申し上げた方がよいでしょうか。

いきなり個人的で重たく暗い話で恐縮ですが、今から2年ほど前、大学時代の同じ学科の親友が自宅で孤独死をしました。彼は大学卒業後、広告デザイナーとなったため、同じマスコミ業界で働く者同士、共通の話題も多く、そもそも学生時代、1970年代前半にイギリスで起った「パブ・ロック」というムーブメントの中で活動したアーティストたち、特にニック・ロウ擁するブリンズリー・シュワルツというグループの熱狂的ファンという共通項もあり、レコードを一緒に聴いたり、貸し借りしたり、音楽についてよく語り合ったり、授業を自主休講し、コカコーラを賭けてビリヤードに興じた仲でした。なので、卒業後、彼は名古屋、私は浜松と距離も離れ、会うことは決して多くなかったものの、電話や手紙、WEBが発達してからはメールで時々やり取りする関係が続いていました。
しかし、ここ10年弱、母親の介護で身も心も疲れ、さらに彼自身の体調も優れない、という話を共通の知人から聞き、また私自身も仕事に忙殺され(と言っても、もちろん充実した時間であったのですが)、彼とやり取りをすることがめっきり減ってきていた最中、彼が亡くなったことを知らされました。
今思うと、もう少し彼との接点を取っておくべきだった、と後悔します。

この連絡をくれたクラスメイトの女性は、親族から聞いた彼の最期が近かった時期の様子を私に話し、途方に暮れ、とにかく落ち込み、明らかに今この時間から過去の楽しかった時間に戻れるものなら戻りたい、というオーラを放っていました。もちろん、遠くに住む私よりも彼の近くに住み、彼と直接顔を合わせる機会が私より多かった彼女からすれば、やはりそれは計り知れない喪失だったのだろうと思います。
しかし、昔話ばかりをして、「今」ということについて、殆どポジティブに語ることのない彼女がそこにいることを感じ、率直に「この人は今、(公私は別にして)充実した生活を送っていないのだろうか?」と思ってしまいました。一言で言えば「過去に生きている」ということです。私とは別の世界で生きているように思えてなりませんでした。
私も彼が亡くなったと聞いた夜、いつもなら15分で寝落ちするところを、結局、2時間ばかりいろいろなことを考え、眠りに入っていけませんでした。
しかし、翌朝、目が覚めた時、「悲しんだり、ノスタルジーに浸るのは昨日の夜まで。今日からはまたいつも通りの自分に戻り、目の前にあるやり甲斐のある仕事をきちんとして、私を待っている人たちのために、精一杯頑張ろう。きっと彼もそれを望んでいる。」と思い、いつも通りの自分に戻りました。「後戻りして、何のためになる!」と。「振り返る」と「後戻り」とでは天と地の差です。

 

 

「TOMOOのもぐラジオ」が終わって、「ロス」な人が結構な数に上ることをSNSや番組宛のメッセージで知りました。彼女と番組を愛し、見守ってくれ、また彼女の言葉や音楽に力をもらった人がたくさんいることを、もちろん私は知っています。そして、ありがたいことだと思っています。
かく言う私も、前回のブログにも記したように、番組が終わるということが確定的になった時(確定させた時)、大きな喪失感を抱きました。でも、それはそうなった時、その日一日だけのことでした。
非難、反目があることを承知の上、誤解を恐れず敢えて言わせていただきます。
これはとてもありがたいことで、それがあるから私は「生かされている」と強く感じることなのですが、私を信頼し、私の思いに寄り添って、一緒に何かをやり遂げようと思ってくれるアーティストやパーソナリティは、TOMOOさんひとりだけではありません。そしてその逆で、私がこの人と一緒に何かを成し遂げたい、力を貸してあげたい、と思うアーティストやパーソナリティもまたTOMOOさんひとりだけではありません。

私を必要とし、私も必要とするアーティストはたくさんいるのです。
私には立ち止まっている時間などないのです

 

それを象徴するような出来事が先月26日にありました。

 

皆さんは小園美樹というアーティストをまだ覚えているでしょうか?

2013年、K-mixの県内アマチュア・ミュージシャン・コンテスト「神谷宥希枝の独立宣言 ザ☆オーディションVol.5」で若干14歳ながらグランプリを獲得し、その後、全国流通のCDもリリース、未来に希望を持って活動を始めた浜松市在住のギター弾き語りシンガーソングライターです。

実は彼女、その前年、中学1年生の時、「ザ☆オーディション」のファイナルに出場、洋楽のカバー曲を歌い、その透き通った歌声と堂々としたパフォーマンスでオーディエンスや審査員を驚かせましたが、入賞には至りませんでした。

その時、審査員を務めていた私は彼女に「もし、残念な気持ちと将来アーティストとして活動していきたいという意欲があるならば、来年は自作の曲でチャレンジして欲しい。」と慰めと励ましの言葉を彼女にかけました。実はその言葉にそれほど強いメッセージを込めたつもりはなかったのですが、翌年、彼女はオーディションにエントリー、私が伝えた通り、自作の曲をギターで弾き語るというスタイルで姿を現し、浜松予選を通過、その勢いで本選でも素晴らしいパフォーマンスを披露し、見事グランプリと、当日会場に集まった観客の投票で決定するオーディエンス賞をダブル受賞したのです。

この時、彼女のこの1年間の凄まじい努力を想像すると、「若さがもたらす爆発力」の素晴らしさに感銘したのと、「人生に何度か訪れる、自らの希望を叶えるための、力を注ぐべきタイミング」のようなものが、今まさに小園美樹という少女に訪れたのだな、と思い、そのタイミングを彼女に逃して欲しくないと思ったのです。彼女を評価し、彼女の未来に可能性を感じた我々大人に出来ることは何か?と真剣に考えました。彼女へのリスペクトを抱きながら。

幸い、浜松市出身でメジャー・アーティストの楽曲のアレンジやプロデュースを手掛け、地元のアーティストのサポートや静岡の音楽文化の向上に寄与したい、という私と同じ志を持ち、同い年でもあるU氏が、彼女の育成とプロデュースに力を貸したいと名乗り出てくれ、美樹ちゃん本人、ご両親とも合意して、CDリリースやライブ展開に向けてプロジェクトがスタートしたのです。

そして、同年10月にアルバム『Dear』で美樹ちゃんは全国デビューを果たします。「ザ☆オーディション」出場者で全国デビューするのは彼女が始めてでした。

となれば、その若さ、ビジュアルをメディアが放って置くはずがありません。静岡のマスコミが彼女をこぞって紹介し、楽曲タイアップを行なったり、イベントのオファーが入ってきて、単に音楽ファンのみならず、彼女の存在が広く(しかし、浅く)知られるようになっていきます。さらに美樹ちゃんの存在は東京の音楽関係者にも知られるところになりました。時はYUIのヒットで口火が切られた「ギタ女」ブームの真っ只中、彼女は格好の標的となったのです。

私が長年お付き合いをしている、音楽業界でもその存在をよく知られ、私も何度も一緒に仕事をさせていただいたことのあるYさん、Uさんという、国民的ヒット曲を持つふたりのギター系シンガーソングライターを世に送り出したT氏が、美樹ちゃんに目をつけました。
そして、その詳細な経緯は私の知るところではありませんが、美樹ちゃんはU氏の元を離れ、より全国的展開を求めてT氏のところへ身を寄せるようになりました。
この時、私が最初に思ったことは「展開が早過ぎる。」「身の丈を超えている。」という危惧でした。もちろん、小園美樹というアーティストのポテンシャルに大きな可能性を感じていましたが、まだ彼女は中学3年生の女の子です。子供です。焦る必要など全くなく、じっくりと腰を落ち着かせ、自身の人間的成長に合わせ、ステップを踏んでいけばいい、と私には思えました。しかし、こういう時「大人たちの力学」が一旦働くと、事はベルトコンベアーに乗った荷物のように、それそのものの意識や意志とは関係なく、勝手に前のみを向いて動き始めてしまいます。小園美樹という「ダイヤモンドの原石」を発見したローカルFM局のプロデューサーが介入する余地などないのです。

実際、T氏は彼が培ってきた、そして成功をもたらしてきたメソッドで、彼女のプロモーションを積極的に展開してきます。音楽業界の重要人物を招いたライブ、首都圏のFM局でのレギュラー番組・・・。氏の実績を知る者の中には当然、新しいビジネス・チャンスを画策したり、「この話に乗って見よう。」と心動かされる人も結構いたように記憶しています。

しかし、結論から言えば、その成り行きはあまりに酷いものだったと言わざるを得ません。私の危惧は残念ながらほぼ的中したと言っていいでしょう。「原石」は「原石」。決してブリリアント・カットされたダイヤモンドの粒にはなっていなかったのです。
美樹ちゃんにとっては、自分の意思などどこかに放って置かれ、自分自身のことなのに、今、自分がどういう場所に立ち、何を目指しているのかさえ、知らされることなく、理解することもできなかったのでは?と思います。
その後、美樹ちゃんは所属事務所を変わったり、活動形態を変えたり、チャレンジはしたものの、状況は好転しなかったと言っていいと思います。

そんな彼女が、今年3月に行われた「神谷宥希枝の独立宣言 ザ☆オーディションVol.11」の会場に観客として姿を表しました。懐かしさを覚えるとともに、19歳になった彼女の凛とした佇まいと話し方に魅了されました。
彼女はどこのマネージメントにも、レーベルにも所属することなく、自分ひとりで考え、そして決めて音楽活動をする道を選択したのです。そして、浜松駅前での路上ライブという、ここ何年かの彼女には到底考えられなかった活動も始めました。「力強い小園美樹」となっていこうとしているのです。

そして先月9月26日、美樹ちゃんは私のところにやってきました。

現在の活動状況、アルバイトのこと、家族のこと・・・。何かが吹っ切れたような生き生きとした表情でした。そして、「ザ☆オーディション」で自分を見出し、サポートしてきてくれた人々に申し訳ない気持ちでいっぱいであること、でもそれを言い出せなかったことを正直に話してくれました。
私はただ「別にこうなったのは美樹ちゃんが悪いわけでは全然ない。美樹ちゃんに人よりも少し早く、大きな力がかかってしまっただけ。まだ十代なんだから、これから立てた目標、通過点を確実にクリアしていけば、その先にあるものは見えてくるから、大丈夫。」と伝えました。

そんな彼女にとっての少し先にある目標は、12月24日に彼女のバイト先でもあるダイニングバーでのディナーショーの成功です。一度ここでショーをやったことがある彼女が、その経験を活かして、さらによいものにしたい、という意欲を私に語ってくれました。
自分ひとりで活動していくことは決めたものの、自分には協力してくれる人が必要だ、と思った彼女の私へのシグナル、パスだと思い、私なりに彼女にいくつかのボールを投げ返しました。
そのひとつが、12月24日という特別な夜に、それに相応しい新曲の発表とCD化、というアイデアです。その話を美樹ちゃんにしたら、実はそれ用の新曲の用意はあるのだと言います。しかし、その曲をレコーディングし、CD化するほどの金銭的余裕が今の自分にはない、とも言うのです。「レコーディング&CD化はお金がかかるもの」という概念が彼女にはあるのでしょう。無理もありません。これまでそういうことは全て周りの大人がやり繰りして、実際に多額の費用を投じて形にしていったのですから。
そこで私は彼女に言いました。「演奏もアレンジもレコーディングもお金をかける必要は全くないよ。今の美樹ちゃんにできる物的条件のもとで、できるだけのことをして、それを堂々と世間にアピールすればいい。極端に言えば、ギター1本の弾き語りを自宅で録って、それをCDRに焼いた手作りCDでもいいじゃん。ファンだって、きっと美樹ちゃんの気持ちを汲み取ってくれるはず。」と。

そして続けざまに私は彼女にこうも言いました。「Ritomoさんだって、ひとりでコツコツとレコーディングして、CDRに焼いて、ジャケット・デザインしてアルバム作っているけど、ちゃんとしたクオリティだし、そんなにお金かけてるとも思えないし、しかも、ライブ物販で結構売れてるよ。」
ということで、早速Ritomoさんへ業務連絡です。「年齢は君の方が上だけど、『ザ☆オーディション』グランプリ受賞者としては彼女の方が先輩だ。小園美樹ちゃんの力になってあげてください。人助けは大切だ。」(そんなRitomoさんが、今週末からスタートする30分レギュラー番組の収録直後、私に大分絞られて、弱音を吐きつつも、前へ向かっていこうと呟いているのは、実に興味深い!!)

 

さて、美樹ちゃんはこれからどこへどう向かっていくのでしょうか?それを楽しみに、そしてサポートし、彼女が成し、形にしていくことを、私の喜びとしたいと思います。

「誰かに『必要』だと思ってもらえることがうれしい。」

9月23日の番組公開録音でSTARMARIEののんちゃんがいみじくもそう言っていました。その通りです。

 

美樹ちゃんとの話が終わった後、彼女は席を立つ前に私にこう言いました。「11月8日に20歳になるんです。そうしたら、久保田さんと一緒にお酒を飲みに行きたい。」と。
私はこう返事をしました。「俺、お酒飲まないけど、美樹ちゃんのご要望とあらば、喜んでお付き合いしますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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