「シンガーソングライターおじさん」との飽くなき戦い

皆さんは「シンガーソングライターおじさん(以下、SSWO)」という言葉をご存知でしょうか?これは「中年男性のシンガーソングライター」という意味ではなく、「10代や20代の女性シンガーソングライター(SSW)のライブに通ったり、音源を購入したりして応援し、中には自分が気に入った女性SSWたちを集めたライブやコンピレーション・アルバムなどを、その道のプロではないのに企画、制作するおじさん音楽ファン」を指す言葉です。
もちろん、SSWO自身は自分が好きなアーティストのためを思い応援し、様々な行動を起こしてくれるわけで、アマチュア女性SSWにとってはありがたい存在という側面もあります。ただし、私たちプロの音楽関係者は「SSWO」という言葉をほとんどネガティヴな意味で使っています。SSWO(決して全てではありませんが)の女性SSWに対する特徴的な態度、例えば「アーティストへの上から目線(自分が見つけてやった、俺が育てている、呼び捨てにする・・・)」や「アーティストと自分の距離を、ファン以上の至近距離に持っていこうとする」などがとても非生産的で、その結果彼らの存在や行動が、その女性SSWの活動の妨げになる要素を多く孕んでいる、という点を問題視しているのです。

女性SSWに「一番付いてもらいたいファンは誰か?」と尋ねれば、「自分と同世代の同性や、もしくはそのボーイフレンド的男性」と答えるのが一般的でしょう。決して「SSWOです」とは言いません。話を分かり易くするために敢えて簡潔にまとめてしまえば、SSWの歌う目的は「自分の紡ぐ歌詞やメロディーへの聴衆からの共感」にあるからです。
私は常日頃、オーディションやライブを観た後にアマチュア・ミュージシャンにアドバイスしていることがあります。それは「年相応のテーマで音楽を作ってください。今だから書ける曲を作って披露してください。」ということです。何故ならそれがそのアーティストが求めている、自分の曲を聴いてもらいたい聴衆に作品を届けるための強力な手立てになるからです。

一方SSWOといえば、彼女たちの音楽性に共感していない、とまでは言うつもりはありませんが、むしろそのアーティストのビジュアル、健気さ、危うさ、自分への従順度、といった音楽とはあまり関係のない要素に惹かれSSWO化するのです。

問題なのは例えばこういうことです。
女性SSWが不特定多数の人に自分の音楽を聴いてもらいたくて、ショッピングモールや地域のイベントやお祭でフリーライブをやったとします。ステージ前に用意された椅子の最前列から3列目くらいに陣取ったのがSSWOだらけだったとしたら、どうでしょう?おそらく、彼女のことなど知らずにただその場を通りかかっただけの、しかし本当は彼女が立ち止まって聴いて欲しいと思っている若い女性たちはSSWOの存在を疎ましく思い、遠ざかっていくでしょう。SSWOに罪はありません。しかし、彼女のライブ開催の意図は達成されずに終わってしまいます。
そして、こういう状況が何回もただただ繰り返され、その女性SSWは「私は何のために、誰のために音楽をやっているんだろう?」という疑問に行き着くのです。しかし、彼女にSSWOと決別する勇気はありません。理由はどうであれ自分のことを応援してくれているSSWOへの恩義、彼らに支えられていれば、彼らが落としてくれる一定の収益で音楽活動が経済的には安定する、そして何といっても「ファンが誰であれ、目的が何であれ、自分、自分の音楽に耳を傾けて、観てくれることがカタルシスになっている」といった事情が決断の邪魔をするのです。「音楽か?人気か?」決断できず時間だけがただただ流れていきます。
更に問題なのはそういった環境下に長く留まると、いつしか楽曲、特に歌詞が一向にレベルアップしない、という事態を招いてしまう、ということです。何故なら先ほどもお話ししたようにSSWOの多くは彼女たちの作る歌詞にそれほど多くの意義を見出さないからです。ファンの要求が薄ければ、詞のクオリティが上がらないのは自明です。そんな状況から脱しようとSSWOからの決別を心に決めた、つまり自分の作る音楽のみで自分の存在をアピールしようと決めた女性SSWの音楽が、どれだけ多くの聴衆の心を掴むことができるか?と言えば、多くの「?」が付いて回ることになります。「音楽の質」がそれができるレベルに達していないからです。結果、いつの間にかその存在は忘却の彼方に消え去ることになるのです。

逆に幸か不幸かは別にして、SSWOたちの中で音楽活動を続けることを自らのアンデンティと定め、SSWOだけが集まる小規模の有料ライブや無料ライブに精を出し、その状況にまんざらでなさそうな態度を垣間見せる結構な数の女性SSWをこれまで目の当たりにしてきました。
例えば、彼女が中学生の時に私が初めてライブに接し、詞の世界観やその佇まいに魅了された美少女SSWが、SSWOの格好の標的になり、中学生の時に明かした「プロになる」という夢に見切りをつけ、化粧を覚え、ますます綺麗になり、更にSSWOを魅了しています。こういう現実を見ていると、「音楽をやるって、なんだろう?」と思ってしまうのも事実です。
更にこうした状況が更にヒートアップし、アーティスト本人が音楽主体ではなく(本人は音楽主体と思っていて、歌うことが嫌いになったわけではないにしても)ビジネスにシフトした活動を始めると、SSWOに従順だったはずのSSWとSSWOの立場が逆転し、「女性SSW=女王様/SSWO=僕、奴隷」という関係性が出来上がる場合すらあるのです。ライブ会場でSSWがSSWOに「今日はこれ買っていきなさいよ。」とグッズの押売りを始め、お客が引けた後、その日の物販売り上げをニヤニヤしながら数え始める姿を見た時、自分の居場所からはかなり遠い場所に来てしまったことを実感します。

東京・渋谷にアルファベット「G」で始まるライブハウスがあります。ここのサイトのスケジュール・ページを見てください。来る日も来る日も「女性シンガーソングライター」と名乗るアーティストのブッキング・ライブが、まるで目や耳に入った情報が脳を通らずに、そのまま何の思考も伴わず、反射的に動作に繋がってしまうように何の意味もなく繰り返されます。しかしアーティストもファンも、そしてライブハウス経営者も、そのサークルに中にいる限りは誰も取りっぱぐれることなく、生きていけるのです・・・。

 

さて、来る3月15日(日)「神谷宥希枝の独立宣言 ザ☆オーディションVol.12」がspace-K で開催されます。県内アマチュア・ミュージシャンをサポートするために、出場者の様々な応募動機、キャリアに応じ、出場者全てに「次のステップ」について、K-mixが出来るアドバイスをする場、だと思い、12年間続けてきた企画です。
地区予選を通過したカバー部門3名、オリジナル部門9組の計12組が最終オーディションに臨みます。

実はこの12組の中に、明らかにSSWOがそのアーティスト活動を「結果的に」支えている10代〜20代前半の女性SSWが3名います。
彼女たちが地区予選に出場した際、それまで空席が目立った客席にSSWOが集結し、客席の後ろには長玉のレンズを装着して、彼女たちをターゲットに定めるカメラマンが並びます。そして、予選会場では審査の参考としてオーディエンス投票を行うのですが、この3名への投票数は断トツです。
応募用紙の応募動機欄の「メジャーデビューをしたい」にチェックを入れた彼女たちが演奏を終えます。審査員である私は一定のレベルに達している、むしろSSWOに支えられなくても活動して行けそうな彼女たちと、集まったSSWOを前に「SSWOのことは無視してください。無視しても本当に貴方の音楽が好きならば、彼らはずっとついてくるでしょう。逆に音楽に魅力がなければ、5年後彼らは貴方よりも若くて可愛いSSWを見つけて、そちらに行くでしょう。SSWOの敷いたレールの上を走るのは止めましょう。あなたが本当に自分の音楽を届けたいのはSSWOではないですよね!」とたたみかけます。この私のコメントを聞いたその場に居合わせたSSWOは一様に笑います、中には「俺のことだな!」と声を上げる人もいます。仕事上、日頃私はSSWOと直接話をする機会もあります。彼らの中には「久保田さんの言うことはもっともだ。」と率直に認める人もいます。

 

静岡の音楽シーンを活性化させたい、と思っている神谷宥希枝と私は「SSWO問題」と常に向き合い、知恵を絞っているのです。

そして、「神谷宥希枝の独立宣言 ザ☆オーディションVol.12」の結果次第では、ある挑戦的(挑発的!?)なイベントを実施したいとも思っています。

 

SSWOではない貴方、まずは3月15日にspace-K にご来場いただき、12組の音楽を聴き、ご自身の感性に素直になってオーディエンス投票に参加してみてください。

 

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