村上春樹、佐野元春、そしてラジオ

村上春樹。
ノーベル文学賞候補、ハルキスト、そして「まさか村上春樹がラジオでDJを、それもシリーズでするなんて!」と、ここ数年におけるラジオ業界最大の事件である「村上RADIO」・・・。村上春樹は相変わらず日本の文学界で、最も注目されている作家であることは間違いないと思われます。
皆さんの中にも村上作品の一つや二つを読んだことがある、という方はたくさんいらっしゃるでしょう。かく言う私も中学3年生の時、彼のデビュー作『風の歌を聴け』に出会ってから、彼の小説やエッセイから生きていく上でのヒント、というか「こういう風に生きてみたい」と影響を少なからず受けてきたと思います。

1979年7月、学校帰りの寄り道定番コースだった、新静岡センターの谷島屋(すみやも)の店頭で『風の歌を聴け』の単行本を見かけた時、何故か自然と手が伸び、中もろくに見ずにレジへ持っていた時のことを、今でも鮮明に覚えています(佐々木マキの表紙のインパクトがよほど強かったのでしょう)。ボロボロになった初版本は今でも家の書棚に納められています。
ただし、私が村上春樹の熱心な読者だったのは、1988年の『ダンス・ダンス・ダンス』までだったというのも事実です。それ以降もしばらくは彼の作品が出れば手に取って読んではみるものの、読後の感覚としては「?」ということが増えていき、遂に長編では『海辺のカフカ』を最後に読むこと自体をしなくなってしまった(諦めた、と言った方が適当?)のです。
私にとって村上春樹と言えば、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』そして『ダンス・ダンス・ダンス』の「鼠四部作」であり、そして短編では、『中国行きのスロウ・ボート』『ニューヨーク炭鉱の悲劇』『午後の最後の芝生』『土の中の彼女の小さな犬』『プールサイド』『今は亡き王女のために』『パン屋再襲撃』『ファミリー・アフェア』なのです(最大のヒット作『ノルウェイの森』は、私が村上作品の全登場人物の中で最も好きな「緑」の存在も含めて大切な作品ですが、この長編は他の作品とは明かに違う文脈で語られるべきものだと思います)。

さて、タイトルにあるように今回のブログは、この村上春樹と佐野元春を同時に語る、ということにチャレンジしたいと思います。
私が知る限り、メディアがこの二人を同じテーブルに乗せて語る、という場面を見たり聞いたりしたことはほとんどありません。

しかし、私の中でこの二人は地下深い鉱脈で繋がっていて、もちろん佐野元春からも数え切れないほどの人生訓を授かっています。

佐野元春がシングル『アンジェリーナ』でデビューしたのが1980年3月。つまり村上春樹が単行本デビューした9ヶ月後のことです。年齢は佐野が村上より7歳年下ですが、ジェネレーションとしては同じ空気を吸って青年期を過ごし、その経験が生み出される作品に色濃く投影されているのではないか?と思うのです。それは一言で言えば、「都会に生活する『僕(自己)』の在り様、そして他者、社会、世界との繋がり方の模索」といった姿勢です。それはクールに見えながら、実は人間の体温が微温的に伝わるものでもあります。

 

そして、何よりラジオマンとしてうれしいと思うことは、二人の作品で「ラジオ」そして「音楽」が様々なシーンに登場し、それがストーリー上のキーになっていることが多い、という共通点です。

『風の歌を聴け』ではラジオがストーリーの起点と終点になっています。そして、そこにはラジオが持つ特徴且つ最大級の強みである「偶然性」「突然(出会い頭)性」が扱われ、ラジオを通じて全くの他人が見えない糸で繋がって、同じ時間を共有する、あるいは過去を振り返る、という光景が読む人の脳裏に広がります。

一方、佐野元春の楽曲でもラジオが重要なツールとして登場するものがあります。タイトルからして『悲しきRADIO』はもちろんですが、「ラジオ」というワードが登場し、且つ私にとっての佐野元春最重要曲は、1986年9月リリースの『WILD HEARTS-冒険者たち-』です(アルバム『Café Bohemia』にも収録)。偶然ですが、ちょうど今の季節の歌でもあります。

この曲はこんなリリックで始まります。

 

    土曜の午後 仕事で車を走らせていた
    ラジオに流れるR&B 昔よく口ずさんだ メロディー

 

『風の歌を聴け』同様、ここにもラジオの「偶然性」「突然(出会い頭)性」が背景にあります。
そして、この曲がリリースされたのは86年9月。私は大学4年生で、昨年の大晦日に投稿したブログ記事にも記したように就職活動が思い通りに行かず、22歳相応の苦悩を抱えていた時期です。

しかし、この『WILD HEARTS-冒険者たち-』を聴いた時、こう思ったのです。

「もし自分がラジオ局で働くことになったら、自分の作った番組がこんなシーンで流れていたらいいな。」と。

K-mixの採用試験の進捗は全くの闇の中ではありましたが、「ラジオ局で働く」というおぼろげな自分の姿の輪郭が、少しだけ明確性を増したのは、この曲のおかげと言っても決して過言ではないと思います。

「都会に生活する自己の在り様、そして他者、社会、世界との繋がり方の模索」。ラジオがその媒介となれば、と思った瞬間でした。
今思えば、それは昨今頻繁に耳にするようになった「diversity」を実践するための「ラジオの役割とは何か?」という考え方にも通じるもののように思えます。

村上春樹と佐野元春。

二人の存在は、これからも私のラジオマン人生が続く限り、必ずやその道程で「sign」となって何回も私の脳裏に想起されることでしょう。

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